これまでの税務調査の通説として、7月は全国の国税職員の人事異動があり、8月は調査先がお盆休みの時期に入るということで、「真夏に税務調査はしない」といわれてきた。とりわけ人事異動は国税職員にとって年に1度の大イベントである。異動直後は引継ぎや挨拶回りでバタバタし、転居を伴う遠隔地への異動となると最大2週間の異動期間が与えられて、着任は7月後半になることもある。
7月は国税当局の事務年度初めということもあり、税務調査は6月末までに一応の区切りをつけておき、7~8月は前事務年度からの持越し事案か、秋の本格的な調査シーズンに備えた机上調査に力を入れる期間、とされていた。ところが、数年前から少し状況が変わってきているという。「異動時期に調査の空白期間が生じないよう、内示日から動くように変えた」と語るのは、地方国税局の幹部経験もある国税OB税理士だ。
国税職員の人事異動の発令日は7月10日だが、その1週間前に内示がある。内示の段階で自分が動くか残るかが分かるため、残留となった調査官は、その日の午後には選定済みの調査先に事前通知を発送。早々に調査を実施し、お盆休み前に何件か片付ける、というのだ。上記の国税OB税理士も、「残留組がこの時期しっかり動くことで、調査の空白期間がなくなり少しでも件数が稼げる」と語る。
国税通則法改正による調査手続きの見直し等で調査件数が激減しているなか、1件でも数をこなしたい国税当局にとってこの“奇策”は無理なくハマり、今は全国に広がっているという。「真夏に税務調査はしない」というのは今や昔。調査件数が減少傾向にあるなか、国税当局はこれまで以上に念を入れた準備調査に加え、実地調査もお盆前に数件はこなしている。世の社長たちも税理士も、認識を改めておく必要がある。